芦屋の文化と歴史を文学の視点で綴る・谷崎潤一郎記念館へようこそ
 
2017年 秋の特別展
「春琴抄」〜〈虚〉と〈実〉の迷宮(ラビリンス)〜
 会期 2017年9月16日(土)〜 12月10日(日)
 「春琴――ほんたうの名は、鵙屋琴」
 主人公の名前から物語が始まる「春琴抄」は、美しくも驕慢な盲目の音曲師・春琴と弟子の佐助の特異な恋愛を描き出した、谷崎渾身の名作です。 発表時には川端康成や正宗白鳥らに絶賛され、今もなお高い人気を誇っています。

 この作品にはモデルとなった二つの背景がありました。一つ目は、当時、恋愛関係にあった根津松子夫人との世を忍ぶ恋愛。 谷崎は松子夫人と主従関係を結ぶ「誓約書」を自らしたため、自身を佐助になぞらえて一心に奉仕したのでした。そして、二つ目は、師を仰いで邁進した地唄の世界。 昭和二年から大阪の音曲界の権威、菊原琴治検校に師事し、日々三味線の稽古に励んでいました。天才と言われる検校からインスピレーションを得て、 類まれな才能を持つ音曲師春琴を造型しました。このように、実生活を作品に限りなく近づけて、春琴と佐助の特殊な師弟関係を描き、物語後半では春琴が大火傷を負う受難、 そして佐助自ら失明する壮絶なクライマックスを描き、究極の愛の形を示したのです。

 谷崎は「ほんたうらしく」書くために、随所に工夫を凝らしました。実際は存在しない、春琴の墓、春琴の伝記『鵙屋春琴伝』を、 作品冒頭に示してあたかも春琴が実在したかのように装うのです。そして、春琴に火傷を負わせた犯人像をいくつか挙げながら、謎のまま作品世界を閉じ、 〈虚〉と〈実〉をない交ぜにして、読者を物語の迷宮へと誘うのでした。

 本展では、「春琴抄」の豊穣な作品世界を、実際のモデルや大阪の旧家で使用された資料などを通して蘇らせます。松子や検校の娘で地唄の人間国宝菊原初子が愛用した着物類、 琴や三味線など。そして、谷崎が松子に宛てたラブレターや関西初公開となる創作ノート「松の木影」は必見です。また、谷崎が絶賛した和田三造「春琴抄」画や、 佐藤春夫作詞「春琴抄」が添えられた樋口富麻呂画軸など、物語にまつわる美術作品もお見逃しなく!谷崎文学の最高傑作「春琴抄」の世界、ご堪能下さい。

■特別展開催時の記念館入場料は一般400円、65歳以上200円、高校・大学生300円、中学生以下無料となります。

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© Tanizaki Junichiro Memorial Museum of Literature,Ashiya.