谷崎潤一郎記念館「俳句講座」  

兼題 虎杖
席題 雪の果

 

黒川悦子選

虎杖のうつろに折れて瑞々し         相坂よしの

忘れ雪朝のスープを思ひ立ち

いたどりや土手を越えれば船着場        井上陽子

忘れ雪余部鉄橋工事中

節を折る音も虎杖摘みしかな         入谷千恵子

館の中命宿りし紙雛

虎杖を採る音指に小気味よく         河野ひろみ

虎杖が空に向かひて指をさす

いたどりの里にたたずむ山家あり       坂本英司

停車場のベンチに残る忘れ雪

虎杖や摘む音鳴らす帰り道          坂本果奈美

先生と作る虎杖水車かな

虎杖を探す山すそ手に図鑑          桜田育子

ぽたぽたと雪の別れの打つリズム

苦労せし甲斐もなく採れぬ虎杖        佐藤千枝子

吾子巣立つ雪の別れとなりにけり


虎杖や大和にありし父祖の城         玉手のり子

仏蘭西へ発つてふ電話忘れ雪

虎杖をがちがち噛んで忘れけり        土井純子

捨畑に虎杖すくと立ちにけり

こんな土地にも虎杖の育ちをり        深尾真理子

黄沙など気にもとめずに球児たち

いたどりを噛めばはるかな友の声       福岡秀和

虎杖の皮剥ぎ喉を鳴らすなり

虎杖を噛んでは母の帰り待つ         福岡世志巳

国破れ虎杖食みし山河かな

知床に虎杖生えて番屋開く          松永祝子

雪の果朽木の目覚む気配あり

黄水仙花も蕾も東向き城           安永文子

雪の果山が緑に動き出す

  

         選者吟

            虎杖の多き空地となり久し

            思はざる名残の雪の中を旅