谷崎潤一郎記念館「俳句講座」  

兼題 梅
席題 春

 

黒川悦子選

借景の天守聳ゆる梅まつり         相坂よしの

松の葉に風の留まる館の春

梅東風やゑびす神社に陶器市         井上陽子

月ヶ瀬も追分も梅だより載る

梅林の尖りし風も香に丸く         入谷千恵子

朗報に紅梅ふふむ二つ三つ

慎ましく咲き馥郁と梅の花         河野ひろみ

春ここに揺るぎなきこと太古より

昔日の水戸の栄華を梅に見る        小嶋陽子

マスク取り梅の香をかぎ又マスク

右頬にそつと添はせし枝垂れ梅       坂本英司

梅林や紅より白へ移りゆき

風吹けば頬を梅が香かすめゆく       坂本果奈美

梅の花一片散らし雀発つ

いつの間に色ふやしたる春の庭       桜田育子

力満つ春の野菜はほろ苦き

亡き父の植ゑくれし梅満開に        佐藤千枝子

月光に影絵のやうな老梅よ

松の葉のきらきら光る春となる       高杉靖子

春うららはるか暦の話など

出発の子の荷ふくらむ梅日和        玉手のり子

一輪も満開もよし梅の花

松の葉の一本づつの春日差し        土井純子

梅林の風つやつやと透きとほる

梅の香を閉ぢ込めてゐる雨もよひ      深尾真理子

梅白し雨垂れまでも透き通る

天満宮本殿護る古盆梅           福岡秀和

寒紅梅沈む夕日に映えにけり

小さくとも胸張る古木盆梅展        福岡世志巳

つんつんと枝闇を突く夜の梅

白梅は寂しすぎるや月薄し         松永祝子

梅の香を確かめたくて回り道

梅林をすかして遠し大阪城         安永文子

ありし日のままの書斎や梅の花

  

         選者吟

            紅梅の盛りといふに旅立たれ

            枝先の二三香るやしだれ梅